開催国・日本は 静岡で、世 界ラン ク2位のアイルラン ドを19-12で破り、ラグビーワールドカップ(W杯)史上最大 級の番狂わ せを演じた。
アイルランドは前 半、ギャリー・リングロウズとロブ・カーニーのトライでリー ドを奪 った。しかし、田 村優の3つのペナル ティゴールで、点差は1回 の得点 で追いつく範囲に 抑えた。
59分(後半19分)、交代出場した 福岡堅 樹がゴール角に飛び 込み、ブレ イヴ・ブロッサムズ(日本代表の愛称)が 逆転した。
田村の72分(後半32分)のペナ ルティゴールで、歴史的勝利 が確実 になった。
日本が 4年前に 英ブライトンで南アフリカに勝 って以来、これほど世界 中に響 き渡るラ グビーの 勝利は なかった。
この結果は、アイルラン ドの規律 のなさや緊 張で はなく、日本の衝撃的 なほど素晴 らしい パフォーマンスが生んだ ものだ。それ を目の当た りにし た観衆は、日本が1メートル進む ごとに、タックルを1 つ成功 させるごとに、ターンオーバ ーを獲得 するごとに、信じがた いほど大 きな声援を送 ってチームを 鼓舞し続けた。
今後6週間続くラグビーの 戦いの中 で何が起きたとしても、今夜の結 果は、何世代にも わたって語り 継がれる大きな遺 産となる。そして日 本のラ グビー人気は、別 次元の高み に達するだろう。
攻撃の哲学を忠実に守った日本
ラグビー界最高レベ ルを誇るディフェ ンスを相手に、日本は試 合開始直後 から全 力で、素早い ペース で自由に動き回るゲームプ ランを実行した。
前半4分、日本がア イルラン ドのディ フェ ンスを左から右 へと引っ張り、松島幸 太朗が先 制トラ イを狙って駆け込んだが、ボールのバウンドが合わずこ れを逃した。直後、田村の距 離のあるペナ ルティキ ックもわずかに外れた。
アイルランドは序盤の嵐を 抜け切 ったかに思えた。リングロウズ とカーニーが8分の 間を置いて 立て続け にトライを決めたことで、優勝候 補は一息つき、エ コパスタジ アムの多数を 占める日 本サポ ーターを 沈させていくかにみえた。
しかしファンも、そし てチームも 弱気にな どならず、日本 はもと の作戦を貫いた。
再び 左から右へと電光石火の速攻をみせ、ラファエレ ティモシーが巧妙な片 手のオフ ロードパス (タックルを受けなが らのパス)を出す。キックで ディ フェンス の間から裏に 転がすと、またも松 島がバ ウンドするボールを取りに行 ったが 、ジョシュ・ヴァンダーフ リアーがこれを抑 え、自陣ゴールのピンチ から抜け出すのに成功した。
前半31分、キャプテンのリ ーチ マイケルが交代出場すると、スタジア ムの興奮度は それまでにない レベルに達した。彼は日本ですでに 伝説 的存在 で、この日の控え選手としてのスタートは、試合 前に論議 を呼んでいた。
リーチはすぐ、日本の攻撃でカーニーを強烈に押しのけた。このプレーがハーフタイムに向かって、日本に勢いをもたらした。
その勢いは、ブレイクダウン(タックル後のボールの奪い合い)であせったヴァンダーフリアーの反則を呼び込む。田村は点差を3点に縮め、ハーフタイムを迎えた。
後半は、前半が終わったとき の状態の まま続いた。日本 が攻め、アイルラ ンドが押 し返す。
アイルラ ンドは プレッシャ ーが増すなか、機 能していな いときに表 れる見慣れ た兆候――ラインアウトの失敗、キャッチ ミス、ノックオン――が、自陣22メー トル内で 日本ボー ルのスク ラムを組 んで以 降、出始めた。
そのスクラムでは、日本は左に展開。福岡がゴ ール角に 飛び込んだ。
崩れたアイルランドの筋書き
アイルランドにすれば、1週間前にスコットラ ンドを身体 的に 圧倒する パフォーマン スを見 せて いて、不安はほとんど なかった。
高みを目指して苦しん だ2018年を経て、ジョウ・ シュミット監督のチ ームには、最高のタ イミングで頂 点に近づいて いる感覚 があった。
実際、長年チームに勝利をもたらしてきたジョニー・セクストンのけがも、チームの高揚感を抑えることにはつながらなかった。
国際試合の先発は2回目でしかないジャック・カーティは、見事な滑り出しを見せた。手元のボールをキックするときも緊張をほとんどうかがわせず、アイルランドの2つのトライに結びつけた。
試合開始20分までにあった6つのラインアウトで、ローリー・ベストは的を外さずにボールを投げ入れた。
すべてが計画通りに進んでいた。しかし、その後に起きたことは、ほとんどの人にとって予測不能だった。
2回の得点機を除いて、アイルランドの時間の大部分は、体力を消耗する午後の暑さのなか、ディフェンスに費やされた。
開始直後の典型的な効率のいいパフォーマンスは、ミスが目立ち始めるにつれ崩壊していった。
カーティは試合再開のキックで、簡単に相手にボールを渡してしまった。その後のマイボールのスクラムで、6日前には完璧に圧 倒的だったア イルランドは、つけ入るよ うに攻め出した日本にターンオーバーを許した。
1次リーグ前半に試合が集中しているアイルランドは、最初の2戦に 勝利することで、進出が見込まれる準々決勝に向けて、ベテラン選手に休息時間を与えるはずだった。
しかし、5日後の木曜日のロシア戦はいまや、想定よりずっと重大な試合となった。この日の試合後半は、セクストンの冷静さと堅守が欠けていたことが、チームにとって大きな痛手となった。静岡で勝利を逃したいま、セクストンの体調は、はるかに大きな注目を集めるだろう。