「恋に落ちた」はずが……米国と北朝鮮、また口も利かない仲に?

Photo: abc.net.au

 

ドナルド・トランプ米大統領が、自分たちは「恋に落ちた」のだと言った時のことを覚えているだろうか。相手は、北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長だ。しかし今ではもう、口も利かなくなってしまったらしい。

口を利く代わりに米国と北朝鮮は、お互いをひたすらじっとにらみ合っているようだ。相手がまばたきをしたり、何か動きを見せたりするまでは、身じろぎもせず。そしてどちらも、まったく譲るかまえを見せていない。

両首脳の2度目の会談実現に向けて予定されていた今月初めの協議は、実現しなかった。

金委員長の最有力側近でタカ派の金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長が、ニューヨークを訪れてマイク・ポンペオ米国務長官と会談する予定だった。しかし、北朝鮮の代表団が予定されていたフライトに登場しなかったことを国務省が知り、会談が中止されたことがBBCの取材で分かった。

高官級協議は別の日取りで実施されるというのが公式説明だ。トランプ大統領は、協議の進展に「とても満足」しているし、北朝鮮への制裁が継続している限り、「何も急いでいない」と述べている。

ポンペオ国務長官が最後に平壌を訪問したのは10月7日。写真は今年5月の訪問時

韓国政府も、米朝協議の中止をあまり深読みしすぎないようにと記者団に呼びかけている。中止の前例は前にもあるのだからと。

ただし、韓国外務省関係者からは「残念だ」という声も聞かれた。

私が文在寅(ムン・ジェイン)大統領をインタビューした際、北朝鮮に核放棄を促す過程で国際社会は「あちこちでぶつかったり、あざを作ったりする」だろうと、大統領は覚悟している様子だった。

とはいえ、北朝鮮との協議の機運も、北朝鮮と関わり続けるための機会も、徐々に失われつつあるという気が、どうしてもしてしまう。

実務者レベルでも、米国の新しい北朝鮮特使、スティーブン・ビーグン氏は就任から2カ月たつが、まだ相手方の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官と会うことができずにいる。

完全非核化は

なぜこのようなこう着状態が続いているのか。それは結局のところ、北朝鮮と米国が実は一度も「非核化」という目標の内容について、合意していなかったからだ。

両国が軍縮と口にするとき、それぞれ実際には何を意味しているのか。米朝首脳は確かに今年6月、シンガポールで合意文書に署名した。しかし当時から私たちは、具体的な内容のない合意だと指摘したし、その具体的な中身のなさが今も協議に影を落としているし、そのせいでいずれ破談になりかねない。

北朝鮮側の姿勢は最初からはっきりしていた。一方的な武装解除はしないと。少し譲歩すれば見返りがもらえるという交換を少しずつ重ねていく段階的な手続きを、北朝鮮は求めている。

ということは今の北朝鮮は、制裁解除という見返りに匹敵するだけの譲歩を自分たちはもう十分やったと感じているわけだ。

米国も国連も、北朝鮮に厳しい経済制裁を科している。

輸出品の約90%が禁輸対象だ。石炭、鉄鉱石、海産物、織物も含まれる。原油の輸入量も上限が決められている。金委員長が、経済成長という国民への約束を果たすには、制裁の解除が必要だ。

しかし、米国側もこの点については譲らない。「完全な非核化」実現までは制裁は解除しないと、態度は一貫している。

現在のところ、この目標は高く、非現実的にみえる。トランプ大統領は確かに「制裁解除は大歓迎だ」と述べたがその後、北朝鮮側も「同じく対応しなければならない」とも付け加えた。

米政府の譲歩はあるのか

ロシア政府は今週、北朝鮮金融機関への制裁を協議するため国連安全保障理事会の開催を求めた。

しかし、米国のニッキー・ヘイリー国連大使は断固たる態度で、「脅威はまだ続いている。北朝鮮にはまだ核施設があり、まだ査察官を受け入れていない」と制裁緩和に反対した。

米政府に態度変更を呼びかける専門家もいる。この交渉過程が完全に破綻(はたん)する前に、少しでいいから態度を和らげてはどうかと。しかし今のところ、トランプ政権に軟化の兆しは見られない。

米国側に譲るつもりがないとすると、北朝鮮はどうするのか。今月2日には外務省米国研究所が声明を出し、「関係改善と制裁の継続は両立しない」と主張。「米国は我々が繰り返す要求を正しく理解しないまま、自分たちの姿勢を一切変えようとせず、傲慢な自慢ばかりを繰り返している」と批判した。

同研究所はさらに、米国が制裁を解除しなければ、自分たちは核開発を再開することもあり得ると示唆した。

断っておくが、米情報機関や国連による複数調査によると、北朝鮮はこれまで兵器製造や備蓄をやめていない。

しかし、ミサイルや核兵器の発射実験はしなくなったので、トランプ氏はこれを自分の個人的勝利と受け止めている。トランプ氏は「北朝鮮の核の脅威はもうない」とまで、宣言している。

北朝鮮の選択肢

なので、確かに北朝鮮には選択の余地がある。ミサイルの発射実験を再開することもできる。そうすれば、問題は解決済みだと宣言した米国大統領に恥をかかせることになる。

だが、そのような行動には巨大なリスクが伴う。

ミサイル実験を再開すれば、自分の政権が弱味を見せることを嫌悪するトランプ氏が激怒する可能性が高い。予測不可能な行動に出がちな米大統領が激高すれば、またしても激しい罵倒が飛び交うことになり、経済制裁解除や緩和の目標達成はおそらくあり得ない。

ミサイルや核実験を再開すれば、進展しつつある韓国との関係にも打撃となる。韓国ではすでに、制裁解除の暁にはただちに北朝鮮投資を開始しようと複数の企業が待機している。

金委員長には、まず自分から譲るという選択肢もある。まずは自分から譲歩し、約束の一部を実現するのだ。それにはたとえば、北朝鮮で唯一存在が確認されている豊渓里(プンゲリ)核実験場に、国際査察官を受け入れるという方法もある。

北朝鮮は今年5月、核実験場を「破壊」すると、現地に外国報道陣を招き、爆発の様子を見せた。

韓国の文大統領によると、南北首脳会談の場で金委員長は文大統領に、査察を受け入れる用意があると述べたという。韓国では、査察受け入れ準備が進んでいるという報道もある。核査察が実施されれば、北朝鮮としては自分たちはまたしても約束を守ったと主張できるようになる。

金委員長はこのほか、核兵器用の核分裂性物質を作っているとされる寧辺(ヨンビョン)核施設を閉鎖して、譲歩をアピールすることもできる。

北朝鮮は今年9月の南北首脳会談で、米国が相互措置をとった場合に限り、寧辺核施設の永久的な廃棄など追加措置をとる用意があると表明した。

金委員長にとって我先に寧辺の施設を廃棄するのは、政治的に極めて難しいことだ。それだけに、これを引き出すには米国としても何か相手に歓迎されるものを交渉のテーブルに提示しなくてはならない。

北朝鮮幹部と定期的に接触している複数の消息筋は私に、金委員長が若き指導者として国内で様々な重圧を受けていると話す。これは大事なポイントだ。

金委員長の周りには、非核化や軍縮に反対する強硬派が複数いる。さらに軍のタカ派は、自分たちが米国の言いなりになって屈したと見られてはならないという立場だ。

北朝鮮の巧みな駆け引き

もしかすると米朝双方が同じように、「時間稼ぎ」をして粘り勝ちをした方がいいと計算しているのかもしれない。米国は、北朝鮮が何か対応するまで制裁を維持することができる。北朝鮮は、警告の声明を出し続けながら、米国以外の相手と外交関係を築いていくという手がある。

だがこれは、米国にとってとてつもない大きな賭けだ。米政府の防衛・情報関係トップは、北朝鮮の核備蓄が米国にとって喫緊の課題だと認定しているのだから。

脅威はまだそこにあるし、このこう着状態が長続きすればするほど、北朝鮮がミサイル開発を続ける可能性が高まる。

北朝鮮への厳しい経済制裁の効果は、限定的かもしれない。米政府はここ数カ月の間、「最大限の圧力」政策への中国とロシアの協力を取り付けたが、しかし実際には国境のあちこちで抜け穴が開き、北朝鮮国内に物資は入っているのだという複数情報がある。

さらにこの間、金委員長が実は巧みな政治手腕の持ち主だと明らかになり、近隣諸国との関係改善を実現している。

米政府は、来年早々にも2度目の米朝首脳会談が実施すると言い続けている。

両首脳はどちらも、直接交渉の方がやりやすいと思っているのかもしれない。しかしそれでも、合意の詳細を整理するには指揮系統の下の方にいる実務者同士が話し合わなくてはならない。たとえば、軍縮手続きの行程表と、それに呼応した米国側の対応の予定表が必要なのだ。

そういう具体的な詳細が形になっていないと、ご覧の通りのにらみ合いになってしまう。外交チキン・ゲームさながらの今の状況では、大いに称賛されたトランプ大統領自慢の北朝鮮政策は、ガラガラガシャンと崩壊してしまいかねないのだ。

Source :

bbc

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