中国の抗日戦争記念館元職員・方軍氏の告発──同館館長らの汚職隠蔽

Source: newsweekjapan

 

今年3月末、中国の作家協会会員で抗日戦争記念館の職員だった方軍氏からメールがあった。同館館長らの汚職隠蔽に関して日本で発表してほしいという依頼だ。問題視したら解雇された。「何が抗日だ」と怒りをぶつけた。

腐敗指摘で解雇された方軍氏

現在64歳になる方軍氏は、中国の抗日戦争記念館(正式名称は中国人民抗日戦争記念館)・研究部の職員だったが、48歳の時(2002年)に館長らに関する腐敗を内部で指摘して、事実上解雇された。窓際に追いやり、いたたまれない状況にした上で、退職せざるを得ない方向に持っていったのである。

以来、無職。現在は中国作家協会の会員として執筆活動で細々と生計を立てている。

今年に入って、筆者の『毛沢東 日本軍と共謀した男』という本を入手し、この人なら自分に代わって腐敗の事実と経緯を世に発表してくれるかもしれないと、日本にいる中国人の友人を通して、筆者に連絡してきた。もう16年も経ち、このまま不正が埋もれていくのかと絶望的な日々を送っていたが、中国共産党の欺瞞性を暴く本を書く勇気を持った人なら、きっと理解してくれるにちがいないと、一縷の望みを託したのだという。

習近平国家主席は「虎もハエも同時に叩く」として腐敗撲滅に力を注ぎ、一般庶民にも告発することを奨励しているとされるが、実際には内部で指摘しただけでも退職に追いやられるほど、腐敗は蔓延し、手の施しようがないと、方軍氏は怒りをぶつけてきた。

彼が関心を持っているのは「腐敗」。

おまけに抗日戦争記念館の館長が腐敗にまみれながら、それを隠蔽しているというのだから、「中国の反日」や「抗日戦争への義憤」など、いかに本物でないかを物語っていると方軍氏は力説する。

抗日記念館への寄付金さえ、館長がネコババしていると訴えてきた。

この不正を暴きたい。しかし中国大陸のネット空間で発表したら、すぐに削除されるだけでなく、政府は問題解決に当たろうとしない。だからどうか自分に代わって、実態を公開してくれという。海外で問題になった場合にだけ、中国政府は動くだろうからというのが、方軍氏の考え方であり、切なる願いだ。

公表する際に、彼の実名を出すことも、彼が頼んできたことも、全てありのままに書いていいとのこと。

筆者が「あなた(方軍氏)の身に危険が及ぶのではないか」と心配して何度も確認したところ、逆に「あなた(遠藤)までが、発表するのを恐れるのか?だとすれば、もうこの世には如何なる望みもない」とまで言ってきたので、そこまで望むならと、引き受けることにした。方軍氏の依頼通りに、方軍氏の主張を、ありのままに公表する。

館長らの腐敗の実態

まず抗日戦争記念館には「中国抗日戦争研究・平和教育基金会」というのがあり、この支援金(抗戦献金)を募って基金に充てるという制度がある。元館長らはこの支援金をネコババして、アメリカにマンションを買い、ひと儲けしようとしていたというのである。

その証拠にと、以下のFAXが添えられている。

アメリカの仲介者から抗日戦争記念館館長に送られてきたFAX(その1)
アメリカの仲介者から抗日戦争記念館館長に送られてきたFAX(その2)

これはアメリカで商売を仲介する人物から、張承均・元館長宛てに送られたビジネスの手順を書いたFAXである。

日本語訳の概略を以下に示す:

***************************

中国人民抗日戦争記念館
張承均館長先生

いま私はデンマークにいます。アメリカで会社を作る手順は以下のようになります。

(一) まずロサンゼルスで会社を作る。設立経費は約1200ドル。
(二) 会社名義で10棟ほどのマンションを購入する。約60万ドル。
(三) 中略
(四) 60万ドルのマンションについては、頭金の20万ドル以外、銀行から40万ドルを借りる。30年ローンを組めば、毎月の支払いは3000ドル前後となる。
(五) 10棟のマンションのうち、5棟は長期賃貸物件として、月3500ドルを回収できる目論見となる。ちょうどローンの支払いに使える。残りの5棟はホテルとして利用し、毎月1万ドルの収入が望まれる。運営コストを除けば、毎月7000ドルの利益、一年で8万ドル。したがって4年程度で投資を回収できる。その後このマンションは純利益となる。
(六) 現時点で必要なもの
1.合弁会社の名前
2.あなた方、取締役三人の名前(英字のピンインで)
3.以上三人のパスポートのコピー
(七) 上記のものをできるだけ早くFAXで送ってほしい。そうすればすぐに計画に着手できる。
馬文平 拝
11月26日
(三人の取締役のうち一人はアメリカに赴き会社の経理を担当してほしい。)
(今後実際の運営は、貴館が指定する者が主導する)(筆者注:ここにある「貴館」とは「中国人民抗日戦争記念館」を指す。)

*******************************
以上が、抗日戦争記念館の館長らが、抗戦献金をネコババして貯めたお金を元手に、アメリカで商売を始めようとしていることを裏付ける証拠と方軍氏が主張するFAXの内容である。11月26日と書いてあるのは、2001年とのこと。

方軍氏が内部で館長らの腐敗を指摘すると、方軍氏は窓際に追いやられ、いかなる業務も与えられないようになった。結果「退養」(早期退職)という形で解雇されるに至ったわけだ。

その後、張承均・元館長と魏永旺・元副館長は使途不明金があったとの咎(とが)で中国共産党北京市委員会宣伝部の処分を受け懲戒免職となったが、同委員会の中に張承均・元館長とつるんでいた者がおり、元館長らには給料をそれまで通り支払っているという。組織ぐるみだと、方軍氏は怒りを強めている。

本来、第三者がこのような状況を公開する場合は、相手側(館長側)の取材もしなければならないだろうが、「使途不明金」の名目で館長らが処分を受けたところを見ると、少なくとも何らかの金銭的な不正行為を館長側が行っていたことは確かだろうと判断される。

抗日戦争記念館と某日本人との結託

方軍氏がもう一つ強い怒りを以て訴えていることがある。

それは張承均・元館長らが免職処分となったあとに館長となった李宗遠氏が某日本人から賄賂もどきを受け取っていることだという。「某日本人」が抗日戦争記念館に日本製の車を献納した。すると李宗遠館長は、それを個人で譲り受けた。

記念館の車なので、その館長が使用するのは、そう大きな問題ではないと思うのだが、方軍氏に言わせれば、「抗日戦争記念館」なのに、その「日本」とねんごろになって、怪しい関係を築いているというのである。

というのは、抗日戦争記念館は別の「某日本人」との関係も非常に緊密で、記念館の美しい女性ガイド(中国人)を、その別の「某日本人」の息子に嫁がせた。結婚後、彼女は日本国籍を取得した。

方軍氏は言う。

──中国にはほかに南京大虐殺記念館や東北抗日烈士記念館があるが、そこでも同様のことが起きていないとも限らない。何が抗日だ! 何が抗戦献金だ! 抗日記念館など、抗日ドラマの滑稽さと同様に、「たわぶれ」に過ぎない。

──中国では赤十字の献金だろうと地震などの災害献金だろうと、何一つ用途の明細を公開したことがない。こうして中国人民と海外の華人華僑たち同胞から「抗日戦争」の名の下に集めた金は、すべて館長のポケットの中に入り、私腹を肥やす元手となっている。人民の血と肉で幹部が私腹を肥やす。これが中国だ!「腐敗万歳!」

「中国共産党の本質は今も昔も変わっていない!」

「中国共産党の本質は、今も昔も変わっていない!」と方軍氏は怒りを露わにする。

彼は筆者がアメリカのVOA(Voice of America)の番組に出演した時に話した言葉を、ネットで視聴しているとのこと。そして続けた。

──自分は歴史のことは分からない。だから『毛沢東 日本軍と共謀した男』の中に書いてある史実に関しては、正確なコメントをすることはできない。しかし、中国共産党の歴史における役割も今の姿勢も、結局は何も変わっていない。あなた(遠藤)は歴史的観点から中国共産党の欺瞞を暴いた。私は腐敗という現場から、その欺瞞性を訴えている。

日中戦争の時に中国共産党は日本軍と結託して強大化し、日本軍を利用して蒋介石・国民党軍を倒したと、あなたは書いている。それとは次元が違うかもしれないが、「抗日記念館が日本人におもねり、日本人から利益を得ている」ということに類似のものを感じる。少なくとも中国共産党は人民を騙し、人民の血と肉を食い物にしていることに変わりはない。

欺瞞性は今も昔も変わらない。腐敗は蔓延し、腐敗のないところを見つけることは困難だ。それを訴えようとしたら、こうして解雇されるのだ。それでいて習近平政権は腐敗撲滅を政権スローガンにしている。この欺瞞性を、どうか訴えてほしい。あなたに全てを委ね、全ての希望を託したい。

「中国大陸という孤島」で闘う人たちへ

以上が方軍氏からの訴えである。もし筆者のコラムが海外の多くの人に知られれば、中国政府はその時になって初めて動くだろうと、方軍氏は期待している。

なお、中国共産党は「日中戦争の時に勇猛果敢に日本軍と戦ったのは中国共産党軍で、日本軍を敗戦に追いやり中華人民共和国を建国した」という虚偽の歴史(抗日神話)を創りあげ、何とか中国共産党による一党支配体制を維持しようとしている。したがって、腐敗行為を行なったのが、その抗日戦争記念館の館長だったりすると、「抗日神話」が崩壊する。そのことを恐れて、方軍氏の口を封じようとしたのではないかと筆者には映る。

拙著がこんな形で、「中国大陸という孤島」で民主と自由を求めて闘う人たちの何らかの役に立ち、勇気とチャンスを与えることができたのだとすれば、少なくとも書いた価値はあったということかもしれない。

習近平政権は外からは盤石に見えても、一部の一般人民には不満が渦巻いている。こういった人たちの受け皿となって真実の声を拾い、国際社会に伝えていくことができればと思っている。

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