原監督、就任会見の発言を分析する。 「管理野球」と「のびのび」の共存

Photo : number.bunshun

 

それはちょっと矛盾した言葉に聞こえたかもしれない。

10月23日。東京・千代田区大手町の読売新聞東京本社で行われた巨人の高橋由伸前監督の退任と原辰徳新監督の就任会見。新旧監督が顔を揃えての会見は、巨人でも15年ぶり。高橋監督の退任挨拶の後に2人の監督が握手を交わす巨人ならではの伝統の儀式を終えて、原新監督の質疑応答は始まった。

背番号83は、2002年からの第1次監督時代につけていたバックナンバーだ。

「原点に返るということでこの番号にした」

こう語った新監督は、目指すチーム像をよどみなくこんな風に語っている。

「まず戦うチーム。目標を定めたチームというのが一番大事なことだと思います。ジャイアンツというチームが勝つこと、これが最大なる目的、目標であります。それに値する選手が誰なのか。言葉は適切ではないかもしれませんけど、“個人軍”ではなく、巨人軍でなければならない。束ねられた1人ひとりの力をしっかりと観察し、そういうことを目標としてチームを作っていきたい」

原監督の口から「のびのび」。

2回目の監督時代、特にその終盤期は、非情とも思える選手起用でチームをひたすら勝利へと導いていく姿が印象的だった。

その姿には、恐怖こそチームを動かす最大のパワーではないか、と感じたことすらある。

そして今回託された使命が、4年連続でペナントから遠ざかっているチームの建て直しであることは誰の目にも明らかだ。

だとすれば厳しい管理野球で再び巨人を常勝チームへと導く。そんな決意表明にも聞こえたが、そんな矢先に、指揮官の口からは意外な言葉が飛び出したのである。

「1つ選手たちに言いたいのは、僕の言葉は堅っ苦しく伝わっているかもしれないけど、スポーツの原点はのびのびと楽しむこと。原点に戻るという点では、そういうのびのび野球をするんだということでやっていきたい」

おそらく翌日のスポーツ紙の見出しはこれで決まりのはずだ。

「のびのび野球」――。

原監督の口から飛び出した意外な言葉だったが、ただ、新指揮官の語る「のびのび野球」とは、選手が自由、気ままにプレーする野球ではないことも明らかである。

阿部慎之助に出したバントのサイン。

思い出すのは2012年6月5日、ヤフードーム(現ヤフオクドーム)で行われたソフトバンクとの交流戦での出来事だった。

両軍無得点で迎えた4回巨人の攻撃は無死一、二塁。打席に入ったのは5番で捕手の阿部慎之助だった。

2度、3度と素振りをくれて打席の足場を固めた背番号10に、マウンドの山田大樹投手が投じた初球だった。

阿部はためらいもなくバットに左手を添えて送りバントをした。

投手前にきっちり転がした打球は一塁に送球され、走者はそれぞれ二、三塁へと進んだ。一発で送りバントを成功させた阿部は、淡々とした表情で三塁ベンチに戻ってきた。

2012年の阿部は打率3割4分、27本塁打、104打点で首位打者と打点王に輝いた、まさに全盛期の真っ只中だった。その巨人打線の背骨を支える中心選手に、試合の序盤で出した送りバントのサインだ。

この采配には「焦りすぎ」等々の批判ももちろんあった。一方で「それだけこの試合を勝つことへの執念を見せた采配」という評論家もいた。

個人の力は前提、そのうえで。

ただ本当のところはそのどちらでもなかったと、後に原監督は明かしている。

「実は交流戦に入る前のミーティングでこんな話をしたんです」

この年の巨人は開幕ダッシュに失敗して4月を9勝11敗2分と負け越した。5月に入って徐々に調子を取り戻していたが、交流戦直前の2カードは5試合で2勝3分けと肝心なところで勝ちきれずに、あとひと息、波に乗り切れない状態にあったのだ。

そんな中でのミーティングで原監督はこう話し出した。

「強いチームには、もちろん個人の力、高いスキルというのは不可欠だ」

指揮官の言葉は続いた。

「20勝できる投手に3割、30ホーマーできる打者。そういう個々の高い能力が揃って初めてチームプレーが成り立つ。それがプロの世界の鉄則だ。ただ、巨人が伝統として選手に求め、私も求めているのは、ある局面に至ったときにはそういう数字だとか、結果だとかに関係なくチームのために動けるということなんだ。高い技術、高い個の力がときに自己犠牲をもって戦える。そのことが大事なんだ」

そして最後にこう宣言したという。

「交流戦では必要な場面があれば全員に送りバントのサインを出す。みんなその覚悟で打席に入ってくれ」

「チームを1つ前に進めるバントだった」

もちろん発言の意味は選手も理解している。

ただ、原監督はさらにどこかでこの方針、この姿勢を徹底させる機会を窺っていた。

それが6月5日のこの場面だったのである。

「平然と送りバントをする阿部の姿を選手たちが見て、どんな言葉よりも強いメッセージがあった。『あの阿部さんでもサインが出るんだ』『あの阿部さんでもああやって送りバントを難なく決めるんだ』。あのバントからチームのムードがガラッと変わった。あの送りバントは走者を進塁させるためだけではなかったんだよ。チームを1つ前に進めた送りバントだったんだ」

必要とあらば2冠に輝く主軸打者でも犠牲を厭わない。

それが勝利を至上命令とする強いチーム、原が理想とするプロの集団の野球ということなのである。

「全権監督」はどんな結果を残すのか。

20勝できる投手に3割、30ホーマーできる打者が「のびのび」とその能力を発揮できる環境を整えたい。ただ、ひと度勝負の局面になれば、その選手たちが自己犠牲を厭わずに一発で送りバントを成功させられる。

自己犠牲を求める「管理野球」と「のびのび野球」という一見矛盾した2つの姿が当たり前に共存する。

それこそ原新監督が選手に求める、巨人の伝統の野球なのである。

「期待するのは、強いジャイアンツを作っていくということです。チームに関してはすべてを監督にお任せするということ。特に編成に関しても監督の意向を完全に尊重しようと思っています」

会見に同席した山口寿一オーナーは、改めてチーム運営だけでなく編成権を含めた「全権監督」であることを明言した。

前回はフロントとの軋轢や様々な問題を抱えながらも10年間で3連覇を2回の計6度(通算7度)のリーグ優勝と2度の日本一(通算3度)を手中に収めている。

3度目の登板では全権を託された「のびのび野球」で、今度はどんな結果を残すのか。グラウンド上だけでなく、その一挙手一投足から目が離せなくなりそうだ。

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