幼い命の叫び、国を動かす 虐待死で緊急対策

Source: nikkei

 

「もうおねがい ゆるして」。東京都目黒区で両親から虐待を受け死亡した船戸結愛ちゃん(死亡当時5歳)が残したメモは多くの人の心を揺さぶった。再三にわたる異変のシグナルをなぜ、生かせなかったのか。児童相談所間の引き継ぎ、不足する児相職員。事件からは、幼い命を救えなかった様々な問題点が浮かび上がる。

「子供の泣き声がやまず、たたくような音も聞こえ心配だ」。関西地方のある児相には虐待を疑う電話や警察からの報告が1日数十件寄せられる。職員は1人当たり10を超える家庭を受け持ち、土日や深夜の出動も多く、担当者は「担当の子供が頭から離れず心休まるときがない」と漏らす。

厚生労働省によると、全国の児相が16年度に対応した虐待件数は12万件超と10年間で3倍以上に急増。都内の児相職員は「事件で世間の関心は高まり、通報はまだまだ増えるだろう」とみる。

結愛ちゃんの虐待死事件では、悲劇を未然に防げたはずのシグナルは複数あった。最初は16年だ。当時、一家が住んでいた香川の児相は結愛ちゃんを2度にわたり、保護。保護解除中に病院があざを見つけて通報したが、再度の保護に至らなかった。

次の機会は一家が目黒区に引っ越した18年1月だ。児童福祉司が両親と定期的に面接する指導措置が解除されており、香川から引き継いだ品川児相は緊急性が高いと判断しなかったという。同年2月、児相の訪問に対し、母親は結愛ちゃんとの面会を拒否。小学校の入学説明会には母親しか現れず、周囲に姿を見せることなく結愛ちゃんは短い生涯を終えた。

シグナルを生かし切れなかった背景には、香川県の児相と転居した東京の児相との引き継ぎ時のリスク伝達が曖昧になっていたことがある。児相間の引き継ぎは電話と文書でのやり取りにとどまり、香川の担当者は「直接会って託すべきだった」と悔やむ。

事件で露呈したのは、引き継ぎ不足だけではない。結愛ちゃんが亡くなるまで児相から警視庁に情報は寄せられなかった。虐待防止対策に取り組む後藤啓二弁護士は児相への虐待情報を全て警察と共有する「全件共有」の導入を提言。「虐待は1つの機関のみで対応できる問題ではない」と訴えるが、「保護者との信頼関係が損なわれる」など全件共有に消極的な声も少なくない。

さらに、虐待の専門職である児童福祉司の不足を指摘する声もある。17年4月時点で約3200人と10年間で1.4倍増にとどまり、増え続ける通報に加え、子供の保護など仕事が追いついていないという。

「痛ましい出来事を繰り返してはならない」。7月20日、安倍晋三首相は関係閣僚会議で訓示した。警察との情報共有の強化、児相間の職員同士の対面引き継ぎの原則化、22年度までに児童福祉司を約2千人増員。政府が打ち出した児童虐待の緊急対策には問題点の解決策が並んだ。これまでも同様に虐待が起きては、児童虐待防止法の改正を繰り返すなど対策を打ち出してきた。それでも教訓を生かせなかった反省の表れでもある。

17年の児童虐待の摘発は過去最多の1138件。虐待で亡くなった子供は58人に上り、一向に減る気配はない。児相での勤務経験がある沖縄大学の山野良一教授(子供家庭福祉)は「緊急性が高い兆候かを判断するため、児童福祉司の増員に加え、警察・医師ら関係者のスキルを向上していく対策が必要」と提言する。

もっとも、政府の緊急対策などが根本的解決になるわけではない。過去、虐待の疑いを児相や警察が把握するきっかけは、近隣住民の通報が端緒となったケースが少なくない。核家族化など地域のつながりが希薄となる中、周囲からは虐待か、しつけかの見極めは難しいうえに、見知らぬ子供の異変を警察や児相に連絡しづらい現実もある。

子供の命を守るため、近隣住民のネットワークをどう機能させるか社会全体で考えていく必要がある。

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nikkei

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