中国の滴滴、宿敵ウーバー独占市場へ参入 剛腕手法は受け入れられるか

Source: newsweekjapan

 

メキシコシティーの先端的な地区にあるシェアオフィスの一角で、中国の配車サービス大手、滴滴出行(ディディ・チューシン)は、ひっそりと業務を進めつつ、宿敵ウーバーの急所を攻める準備を整えている。

メキシコはウーバー・テクノロジーズにとって最も重要で収益性の高い市場の1つだ。米サンフランシスコに本拠を置くウーバーはメキシコでほぼ独占状態を享受しており、40前後の都市で700万人のユーザーを抱えている。だからこそ滴滴出行は、この快適な状況からライバルを追い出したいと切望している。

ウーバーに勝つにはどうすればいいのか──。滴滴出行は露骨な戦略に訴えている。メキシコ事業チームのためにウーバーの従業員を引き抜いているのだ。

滴滴出行の戦略に詳しい関係者によれば、従業員が素姓を隠してウーバーのサービスを利用し、運転手と交わす車中での会話から弱点を突き止めようとしているという。同関係者によれば、滴滴出行はウーバーより大きな構想を持っており、メキシコで自転車、スクーター、オートバイのシェアリング事業を展開したいと計画しているという。

米アップルや日本のソフトバンク<9984.T>を含む世界の優良企業からの投資によって、滴滴出行は潤沢な資金を誇る。過去1年間に限っても、グローバルな事業拡大を支える資金として100億ドル(約1兆円)近くを集めている。

「滴滴出行と戦いたいとは思わない」と、北京で活動する投資家でアドバイザーのジェフリー・タウソン氏は語る。「彼らは負けない」

だが、滴滴出行がメキシコで宿敵に勝てるかどうかについては、確実とは言えない。アジア以外の地域で事業をゼロから立ち上げるのは初めての試みだ。コストのかかる企てとなる。

はっきりしているのは、滴滴出行が株式時価総額560億ドルというバリュエ―ションを正当化するために成長を続ける圧力にさらされているということだ。ラテンアメリカは以前からのライバルとの新たな戦場であり、滴滴出行にとっては敵地でのアウェイ戦だ。

IHSマークイットのアナリスト、ジェレミー・カールソン氏は「太平洋を越えるとなれば、話はまったく変わってくる」と話す。

上げ潮に乗る

総ユーザー数4億5000万人の中国市場で圧倒的なシェアを誇る滴滴出行は、利用件数ベースで世界最大の配車サービス企業だ。昨年は、ウーバーの2倍には届かないものの、74億件超の利用があった。

ウーバーは滴滴出行の剛腕ぶりを思い知らされている。

ウーバーは中国市場に食い込もうと巨額を投じたキャンペーンを展開した挙げ句、2016年には中国事業を滴滴出行に譲渡し、その代償として滴滴出行の株式を17.5%取得した。滴滴出行側でもウーバーに10億ドル投資している。

他市場を巡る競争の中で、この二大勢力はあいかわらず真っ向勝負を続けている。ウーバーはラテンアメリカで一番手となっており、海外市場ではブラジルとメキシコが同社にとって最大規模となっている。ベルリンに本拠を置く消費者リサーチ会社ダリア・リサーチによれば、メキシコでは、8月時点でウーバーが87%のシェアを占めている。

滴滴出行はこの状況に挑もうとしている。メキシコで従業員の採用を昨年開始し、ロイターはいち早くこの進出計画を報じた。同社はこの計画の公表を拒んでいるが、戦略の詳細は明らかになりつつある。

首都メキシコティーのフアレス地区にある、シェアオフィス「ウィワーク」ビルの9階に陣取った滴滴出行は、ゼロから事業を構築しつつある。インドや中東といった海外市場においては既存企業の株式を買収していた滴滴出行だが、メキシコではあまりにもウーバー優勢なので、地元の競合企業の中に目ぼしい投資機会が見当たらないという。

事情に詳しい2人の人物によれば、経験豊富な人材不足に悩む滴滴出行は、ウーバーの現旧従業員を積極的に採用しており、場合によっては2倍近い給与を提示することもあるという。

滴滴出行のメキシコ事業を率いるのは、ウーバーの古参幹部だったリン・マー氏だ。不首尾に終わったウーバー中国事業の立ち上げにも参加した人物だ。現在、滴滴出行の国際事業担当ディレクターを務める同氏は、「リンクトイン」のプロフィールによれば、昨年末に滴滴出行が買収したブラジルの新興配車サービス企業99の事業での経験もある。

リンクトインのプロフィールを検証したところ、マー氏をはじめとするディディ陣営は、業務、ロジスティクス、戦略、マーケティング、運転手研修といった経験を有するウーバーのマネジャーや専門家を、これまでに少なくとも5人、メキシコで採用している。

マー氏はコメントを拒否している。

滴滴出行の戦略に詳しい関係者によれば、まだ運転手の募集を開始しておらず、最初にどの都市に参入するかはっきりしないという。

同関係者によれば、滴滴出行は価格面での競争だけでなく、安全運転やレスポンスタイムの短さなどを売りにしていく計画だという。同社では、どこに配車するべきかを15分前に予測するための支援アルゴリズムを開発済みだ。

また滴滴出行は、メキシコで自転車やスクーター、オートバイのシェアリングサービスの提供することも検討している。これに対して、ウーバーはまだ配車サービスだけに固執している。多様な交通手段の提供は、同社が中国市場で優位を築くうえで有効だった。

だが、中国市場とメキシコ市場の最大の違いは、現金決済という点かもしれない。上記の関係者によれば、滴滴出行は運転手を保護するためにメキシコ市場で現金での料金徴収を扱わない予定だ。

一方、ウーバーは、銀行口座を持たない人が数千万人もいるこの地域で、現金を受領する権利を認めるようメキシコの政治家に強く働きかけている。この動きは、論争とともにビジネスも生み出している。

2017年にロイターが行った分析によれば、ブラジルでは、ウーバーが現金での料金受領を開始した後、同社の運転手が被害者となる強盗・殺人件数が急増。ウーバーは、運転手の保護を改善するため、乗客の本人確認を行う手段を追加したと述べている。

メキシコでは、こうした被害の増加はまだ見られない。とはいえ、現金での料金受領を主張するウーバーの立場は、メキシコ国内の一部の州で当局との対立を生んでいる。

中国の新興企業に対して海外展開に向けた支援を提供するイェーモビの国際事業部を率いるデイジー・ウー氏によれば、ディディはこうした障害を回避しつつあるように見えるが、ラテンアメリカでは文化的なハードルに直面しているという。

ウー氏は、ラテンアメリカの消費者は一般に中国ブランドよりも米国ブランドを好むと指摘し、さらに、中国の企業文化は現地従業員の反感を買う可能性があると言う。

「ラテンアメリカ諸国に進出した中国企業の大半は、なかなか成功できずに苦労している」とウー氏は言う。

たとえば滴滴出行は、採用面接の日程をクリスマスの週に設定しようとして、同社への就職を希望するメキシコの志願者を困惑させている。ある応募者はロイターに対し、「非常に驚いた。休暇をキャンセルしないといけないのか、と思った」

ウーバーの戦い

その一方で、来年をめどに株式公開準備を進めているウーバーにとって、ラテンアメリカでの優位確保は重要性を増している。

昨年45億ドルの赤字を計上したウーバーは、中国やその他のアジア地域で激しい競争に直面しており、欧州では規制当局による取り締りを受けている。また同社は、連邦当局による一連の刑事捜査や職場におけるセクシャルハラスメントの告発により昨年7月に共同創業者のトラビス・カラニック氏が辞任するなど、スキャンダル続きの1年からようやく立ち直りつつあるところだ。

ウーバーのラテンアメリカ・アジア太平洋事業を担当するアンドリュー・マクドナルド副社長は、巨額の損失を計上するなかで収益市場のメキシコにおいて優位を維持するために、必要な手は何でも打つ用意がある、と話す。

「もっと新規顧客獲得に投資すべきなのか、それとも既存顧客との関わりを深めていくのか、引き続き注意を向けていくことになるだろう」と彼は言う。

ウーバーは、メキシコ顧客を繋ぎとめるため基本サービス料金を低く据え置くことを約束する、とマクドナルド副社長は言う。しかし彼は、収益を増やすために高級車指定などのオプション追加も検討していると話している。

滴滴出行によってメキシコ市場でのリードが削られることをウーバーが気にしているとしても、同社はそれを態度に示していない。マクドナルド副社長によれば、メキシコ市場でのノウハウをつかむのはそう簡単ではなく、ライバルもじきに思い知ることになるだろうと語る。

「滴滴出行の資金力はかなりのものだ」と語るマクドナルド副社長。「しかし、メキシコは一筋縄ではいかない市場だ」

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